フォレンジック調査とは?サイバー攻撃発生時の調査手法を徹底解説

フォレンジック調査とは?

デジタル・フォレンジック(フォレンジック調査)とは、コンピューターやネットワーク機器に記録されたデジタルデータを収集・分析し、サイバー攻撃や内部不正などのインシデントの原因、経路、影響範囲を明らかにする調査技術です。

「フォレンジック(Forensic)」はもともと「法廷の」「法科学の」を意味する言葉で、法的証拠として活用できる信頼性の高い調査結果を提供することがその特徴です。

サイバー攻撃発生時のフォレンジック調査

サイバー攻撃が発生した際のフォレンジック調査は、被害の全容を把握し、再発防止につなげること、ステークホルダーへの説明責任を果たす目的で実施します。対象システムや端末からログやメモリ、ディスクイメージなどのデータを適切に保全し、攻撃がどのように行われたかを詳細に調査します。

具体的には、攻撃の起点、マルウェアの挙動を含む攻撃者の活動、情報窃取の有無などを明らかにすることが重要です。調査結果は、インシデント対応チームや経営層に報告され、被害拡大を防ぐための暫定的な措置や将来的なセキュリティ対策の検討に活用されます。

内部不正(情報の持ち出し、ハラスメント、横領など)のフォレンジック調査

内部不正調査のフォレンジックは、従業員や関係者によるデータの持ち出し、改ざん、不正利用といった行為の有無を客観的に解明するために実施されます。調査対象はPCやメール、チャット、クラウドサービスの利用履歴など多岐にわたり、削除済みデータやログの復元も含まれます。

その目的は、不正行為の有無を立証し、懲戒処分や訴訟対応に耐えうる証拠を確保することです。また、職場内のハラスメントやコンプライアンス違反の実態調査にも活用されます。プライバシーや個人情報に配慮しつつ、法的に適切な手順を踏むことが求められ、調査結果は組織の信頼性維持や内部統制の強化にも寄与します。

サイバー攻撃発生時のフォレンジック調査の重要性

サイバー攻撃を受けた際、被害の全容を正確に把握することは、その後の対応の成否を左右することがあります。 いつ、どのように、どれだけの被害が発生したのかを特定できなければ、適切な対策を講じることは難しい場合があります。被害の内容(情報窃取、データの暗号化・破壊など)、範囲(影響を受けたシステムやデータ)、そして攻撃者が用いた具体的な手法(マルウェアの種類、侵入経路)をフォレンジック調査によって明確にする必要があります。

これらの情報がなければ、再発を防ぐための根本的な対策は困難です。例えば、侵入経路が不明なままでは、同様の脆弱性を通じて再び攻撃を受けるリスクが残ります。また、被害範囲が分からなければ、情報漏洩の可能性がある顧客や取引先への適切な通知もできず、ステークホルダーへの説明責任を果たすことも難しくなる可能性があります。

フォレンジック調査は、客観的なデジタル証拠に基づいてこれらの事実を解明する上で有効な手段です。この調査結果があるからこそ、被害状況を透明性をもって説明し、信頼回復に向けた具体的な行動を示すことができると考えられます。

サイバー攻撃発生時のフォレンジック調査アプローチ

サイバー攻撃が組織のネットワークをターゲットとして実行された場合、複数の情報源を組み合わせて横断的にフォレンジック調査を実施することで、攻撃の経路、手口、影響範囲を明らかにすることが可能となります。以下に、主要な調査対象と横断的分析の意義を示します。

エンドポイントおよびサーバーのフォレンジック

クライアントやサーバーに対するフォレンジック調査では、ディスクイメージやメモリダンプを取得し、OSやアプリケーション固有の痕跡を詳細に解析します。具体的には、イベントログ、レジストリ、ブラウザキャッシュ、プリフェッチファイル、システム・アプリケーションログ、スケジュールタスクなどを対象とし、マルウェアや不正スクリプトの実行履歴、外部C2サーバーへの通信痕跡、USBや外部ストレージの利用状況、権限昇格や資格情報窃取の試みなどを特定します。

また、攻撃者が設置したウェブシェルバックドア永続化用のレジストリエントリ隠蔽されたファイルやプロセスなども調査対象となります。これらの情報を時系列で整理することで、攻撃者がどの経路で侵入し、どの範囲まで活動を展開したのかを把握できます。さらに、利用されたサービスや脆弱性の特定、攻撃の目的(情報窃取、破壊、踏み台化など)や影響範囲の評価も行い、復旧・再発防止策の策定に役立つ知見を導き出します。

マルウェアの解析

収集したマルウェア検体に対しては、サンドボックス環境での動的解析や、逆アセンブル・逆コンパイルを用いた静的解析を実施します。これにより、マルウェアが持つ機能(C2通信、情報窃取、ランサムウェアの暗号化機能、権限昇格のエクスプロイトなど)を特定します。また、検体のハッシュ値やYARAルール、コード断片を脅威インテリジェンスと照合することで、既知の攻撃キャンペーンとの関連性を評価します。

ネットワークおよびセキュリティ製品のログ調査

ファイアウォール、IDS/IPS、プロキシサーバー、EDR、SIEMなどのセキュリティ機器から出力されたログを統合的に分析し、外部からの侵入経路や不審な通信パターンを追跡します。例えば、異常なポートスキャン、暗号化トンネルを利用したデータ流出、あるいは通常業務時間外の不自然な認証試行などを抽出します。また、クライアントやサーバーのフォレンジック結果と突き合わせることで、端末単体では見えない広域的な相関関係を明らかにします。これにより、攻撃の侵入経路、内部拡散の経路、データ持ち出しの有無を包括的に評価できます。

脅威インテリジェンスの活用

端末やログ、マルウェアを対象としたフォレンジックで得られた成果を脅威インテリジェンスと組み合わせることで、調査の精度と幅を高めることができます。オープンソースの脅威情報(OSINT)や商用インテリジェンス、セキュリティベンダーのレポート、コミュニティからのIoC(Indicator of Compromise)を照合することで、攻撃者の背後にあるグループやキャンペーンを推定できます。さらに、MITRE ATT&CK フレームワークを参照し、攻撃者が利用したTTPs(戦術・技術・手順)を体系化することで、今回のインシデントが既知の攻撃パターンに該当するか、それとも新しい挙動を示しているかを評価できます。

加えて、調査で特定されたIoC(不審なIPアドレス、ドメイン、ファイルハッシュ、レジストリエントリ、プロセスなど)を基に、組織全体のログやセキュリティ機器を横断的に検索・分析する脅威ハンティングを実施します。これにより、現時点で顕在化していない潜在的な脅威や、過去に見過ごされた侵害活動を検出し、追加の被害拡大を未然に防ぐことが可能となります。このように脅威インテリジェンスを積極的に活用することで、単なる事後調査にとどまらず、将来の攻撃に備えた予防的なセキュリティ強化へとつなげることができます。

インシデント発生時のフォレンジック調査への備え

サイバーインシデント発生時に迅速かつ的確なフォレンジック調査を実施するには、平時からの準備が不可欠です。組織は以下のような観点で体制や技術、情報収集の仕組みを整備しておくことが推奨されます。

  1. 体制づくりと役割の明確化
    • インシデント対応体制の構築:CSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置し、フォレンジック担当者や法務、広報など関係各所の役割を明確にします。外部のフォレンジック専門会社との連携も検討します。
    • 証拠保全手順の文書化
    • 指揮系統の明確化:インシデント発生時の報告ルートと意思決定権限を定め、迅速な対応と情報共有が可能な体制を構築します。
    • 外部リソースとの連携:必要に応じて、外部のフォレンジック専門会社と事前に連絡を取り、協力体制を確立しておくことが考えられます。
  2. 技術的な準備
    • ログ管理の整備:クライアントPC、サーバー、ネットワーク機器、セキュリティ製品(EDR、SIEMなど)のログを体系的に収集・長期保存できる仕組みを整備します。
    • フォレンジック対応可能な環境の整備:メモリダンプやディスクイメージを取得できるツールや手順書を用意し、定期的に動作確認を行います。緊急時に迅速なデータ取得が可能となる環境を確保します。
    • マルウェア解析・脅威分析の準備:サンドボックス環境や解析ツール(静的・動的解析ツール、逆アセンブラ、YARAルールなど)を用意し、マルウェアや不審ファイルの分析手順を事前に策定します。
    • IT資産管理:社内の端末、サーバー、ネットワーク機器の構成やソフトウェア、脆弱性情報を常に把握し、攻撃対象や影響範囲の特定を迅速化します。
    • IoCの収集と活用準備:過去のインシデントや脅威情報からIoCを整理し、SIEMやEDRと連携させて脅威ハンティングに活用できるよう準備します。
  3. 平時の情報収集と訓練
    • 脅威インテリジェンスの定期的な収集:オープンソース情報、商用情報、セキュリティベンダーのレポートなどを継続的に取得・整理し、最新の攻撃手法やキャンペーン情報を把握します。
    • シナリオベースの演習:定期的なインシデント対応演習(テーブルトップ演習や模擬フォレンジック演習)を通じて、手順書の有効性を検証し、チームの対応力を高めます。
    • 平時のログレビューと異常検知:日常的にログを確認し、通常と異なる挙動の兆候を早期に把握します。潜在的脅威の特定につなげることで、被害を最小化することに役立ちます。

インシデント発生時のデジタルフォレンジックの必要性

一般的にインシデントを認知するきっかけは、セキュリティ機器のアラート、外部からの情報提供、またはランサムウェアアクターからの身代金要求メッセージなど、多岐にわたります。どのようなきっかけであれ、フォレンジック調査を実施することは、適切な対策実施、事業リスクの極小化や風評被害の防止といった多岐にわたる価値をもたらします。
具体的には、以下のような価値が期待されます。

  • 被害の全容把握と根本原因の特定:フォレンジック調査を実施することで、攻撃の起点から経路、手法、被害内容(情報窃取の有無やデータ破壊の範囲など)を客観的に特定できます。これにより、再発防止に向けた適切な技術的対策を講じることが可能になります。
  • ステークホルダーへの説明責任を果たす:法令や業界規制(個人情報保護法など)に基づき、監督官庁や顧客への報告・通知が求められる場合があります。フォレンジック調査で得られた客観的な事実に基づき、被害状況や対応策を正確に説明することで、透明性をもって説明責任を果たし、ステークホルダーからの信頼回復に繋げることができます。
  • 将来的なリスクの低減とセキュリティ強化:攻撃者が用いた手法や脆弱性を特定することで、同様の攻撃が再び発生するリスクを低減できます。これにより、セキュリティ対策をより効果的に強化するための具体的なアクションプランを策定し、組織全体のセキュリティレベルを向上させることが可能となります。

フォレンジック調査は、緊急事態において迅速に事実を解明し、単なる復旧作業にとどまらない、企業のレジリエンス(回復力)を高めるための重要なプロセスです。

よくある質問

サイバーインシデント発生時のデジタルフォレンジックとは、どのような目的で行いますか?

システムやネットワーク上に残されたデジタル証拠を科学的に収集・解析し、インシデントの全容究明を目的とします。具体的には、攻撃の経緯、侵入経路、被害範囲(情報窃取の有無など)を特定し、再発防止策の立案や、当局への報告、法的措置に繋げるための根拠を固めます。単なる技術的な調査ではなく、事業継続性や企業の信用を守るための重要なプロセスです。

調査に必要な初動対応で、特に注意すべきことは何ですか?

証拠を意図せず損なってしまう可能性のある行為は、その後の調査に影響を及ぼすため、慎重になる必要があります。具体的には以下の行為が挙げられます。

  • 不審な端末の電源を安易に切断する(メモリ上の揮発性情報が失われる可能性があります)。
  • ログや不審なファイルを削除・変更する。
  • 感染端末をネットワークから切り離す際に、物理的にケーブルを抜く(通信状態の証拠が失われるため、ネットワークスイッチでポートを無効化するなどの論理的な方法が推奨されます)。
  • 被害端末上で、不審なファイルを特定・削除しようと操作する。

メモリダンプから何がわかりますか?

メモリダンプには、電源を落とすと消えてしまう揮発性情報が含まれています。攻撃者が使用したマルウェアの実行状態、暗号化キー、プロセス情報、ネットワークコネクションなど、ディスクフォレンジックだけでは得られない重要な証拠が残されている可能性があります。

クラウド環境のフォレンジックは、オンプレミスと何が違いますか?

クラウド環境では、オンプレミスのように完全なディスクイメージを取得することが困難な場合が多いため、クラウド事業者から提供される監査ログ、APIログ、ストレージのスナップショットなどを活用する固有の手法が必要です。APIログを分析することで、不正な操作や権限昇格の試みを特定し、スナップショットから不正な変更内容を調査します。

ログの長期保存設定やアクセス権限の管理など、平時からクラウドフォレンジックを想定した準備が不可欠です。

調査にかかる期間やコストは、どの程度を想定すべきですか?

インシデントの種類、調査の規模と範囲によって大きく変動します。

  • 単一端末の調査:数日〜数週間程度、数十万円〜数百万円程度。
  • 複数台のサーバーや端末を含む大規模調査:数週間〜数か月、数百万円〜数千万円規模。


攻撃の巧妙さ、データ量、調査対象範囲、復旧作業の有無などによって大きく変動するため、専門家と相談して詳細な見積もりを取得することが一般的です。

フォレンジック調査の最終的な成果物として、何が得られますか?

最終的な報告書には、以下の内容が盛り込まれます。

  • インシデントのタイムライン:攻撃の起点から現在までの詳細な経緯。
  • 技術的な分析結果:マルウェアの挙動、侵入経路、脆弱性、バックドアの有無など。
  • 被害範囲の特定:情報窃取の有無や内容、影響を受けたシステム・ユーザー。
  • 推奨される再発防止策:技術的・運用的な改善策の提言。


これらの成果物は、経営層への報告、当局への提出、およびセキュリティ運用改善の基盤となります。

まとめ

サイバー攻撃によるインシデントは企業の規模や業種を問わず、ある日突然発生します。実際に何が起きたのかを正確に把握し、関係者に説明責任を果たすうえで、フォレンジック調査は非常に重要な役割を担います。調査の精度次第で、被害の全容解明や今後の防止策の質にも大きな差が出るため、信頼できる外部パートナーとの連携がカギとなります。

本記事でご紹介したように、平時からログ管理や証拠保全体制を整えておくこと、初動対応のポイントを押さえておくことが、被害の最小化につながります。いざという時に備え、以下のステップで対応力を向上させておきましょう。

  1. インシデント対応体制の構築: CSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置し、フォレンジック担当者や法務、広報など関係各所の役割を明確にします。外部のフォレンジック専門会社との連携も検討します。
  2. ログ管理の徹底:クライアントPC、サーバー、ネットワーク機器、セキュリティ製品(EDR、SIEMなど)のログを体系的に収集・長期保存できる仕組みを整備します。
  3. 技術的な準備:メモリダンプやディスクイメージを取得するためのツールや手順書を用意し、定期的に動作確認を行います。
  4. 訓練の実施:定期的なインシデント対応演習(テーブルトップ演習や模擬フォレンジック演習)を通じて、手順書の有効性を検証し、チームの対応力を高めます。


実際にインシデントが発生した際には、迅速かつ適切な対応が求められます。社内での対応が困難な場合は、専門的な知識と経験を持つ外部パートナーとの連携も重要な選択肢の一つです。

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